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「二人共隠れて…、何か出てくる…っ」


急ぎ提灯を畳み、片腕で下がるよう康一が小声で合図を出したかと思えば
朽ちて無くなった正門付近から、ぼやり、また一つ、ぼやりと何かが姿を浮かび上がらせた。
物音を立てないように三人は壁の角へと姿を隠し、正門付近を覗き見ていると
浮かび上がったもの達が一つ、二つと門より外へ出やり、列を成して歩き始めたのだ。
その姿は様々、背丈の高い人型もあれば極端に小さく集い群れる餓鬼、鬼火ども。
ふらふらと宙をさ迷う下では家事道具である鍋や笊、傘や草履に手足が生えた異形の造形物が
世に出た嬉しさか、はたまた儚さからか踊り仕草を交えて列に続いて行くではないか…


「で…でたぁ…~」

「しっ…!!」


漸く念願叶った億泰が声を漏らすのを指塞ぎで康一が止める。
気が付かれでもしたらどうするんだ…とって食われるだけじゃあ済まないだろうさ。
息さえ忘れそうな中、二人のやり取りさえ気が付かないまま
仗助は百鬼夜行の一団から目を反らせずにいた。
あれだけ襲っていた胸騒ぎにきっと声も出てしまうだろうと思っていたが
何故か奴等を目にした途端、それは潮を引くように静まり凪いでいった。
不思議な感覚に囚われつつも、仗助、億泰、康一の三人は
漫ろ歩く異形のもの達を見ていると、ふと康一が鼻を嗅ぐ仕草をみせた。


「なんだろう…この香り」


違和感を確かめるように嗅ぐ仕草を続ける康一を他所に
仗助と億泰の視線は依然、目の前の行列一行に釘付けのままだった。
振り返り、鼻を突き出し、康一は香りの出処を知ろうとするも
それはごく微量にしか鼻に香らず、風が吹けば紛れて消えてしまう程弱いものだった。
確かに草木に混じって香る…しかも何処かで覚えのあるような、
ごくごく近くで嗅いだ事があるようにも思えるが、それが何であるかを康一は
いまいち思い出せないでいた。


「オイ、中から妙な足音がすんぜぇ…用心しろよ」


壁に耳を欹てながら、音で中の様子を探る億泰の言葉に直ぐ様に視線を壁向こうへ戻すと
列を成して連なる異形のもの達の数が、徐々に数を減らしているのに気が付いた。
緊迫した雰囲気が張り詰める中で、しっかりと耳をすませていると
寺の境内の中から外に向かい、つっかけた足音が近付いてくるのが聞こえてくるではないか。


いよいよ真打の登場といったところか。
一歩ずつ近づく足音を数えるように三人は音の主を待っていると
ふわりと風に揺れた青い袖が姿を見せた。
着物からして野郎か、さてどんなやつかと息を殺して待ち構えていると
崩れた正門跡から背丈のすらりとした自分達と同じくらいの年頃だと思われる青年が現れた。
相手は此方に全く気がついていないらしく、両腕を袖内で組みながら
風の流れる行先、異形の一行の消え行く背中姿をただ静かに見つめているようだった。


静かに吹く夜風が草木を揺らす音以外、呼吸さえも忘れてしまいそうな緊迫感。
漸く正体を突き止め、尚且つ自分の目的である奴等を見た達成感に興奮する億泰、
状況を冷静に観察しながらも、何か考え事でもあるかのような表情の康一、
しかし、仗助は二人とは全く別の事を思っていた。


暗がりでも分かる白肌、黒に混じる緑髪、憂いを帯びた瞳。
足音は確かに耳にした、ということは恐らく人間なのだろうが
辺の雰囲気を纏った姿は妖しく映え、仗助には人か否か、曖昧に映っていた。
化物、妖怪を見ちまった時には身体が動かなくなるとは言うが
全てが恐怖で身体が竦むと片付けられるわけでは無いらしい。


各々が思い思いの考えを描く中、此方の事など知りもしない青年はといえば
相変わらず異形の一行の背を見つめているばかり。
その眼差しは愛おしそうに、しかし刹那に寂しさを交えつつ眺め続けている。
すると、億泰がぐいっと腕まくりの素振りを見せた。


「なぁ~…いつまで俺達は隠れてなきゃならねぇ~んだ…、さっさととっ捕まえようぜ…っ」


「気持ちは分かるけど今出ていくのは得策じゃあないよ億泰君、出てっちゃ駄目だ;」


今にも飛び出して行こうとする億泰を落ち着けと康一は宥める。
小声なのは一応億泰なりの配慮なのだろうが、しかし勢いはそのままである。


「だって正体が人間だったのは今、目の前で見たじゃあーねーか…んなら話は…」

「だから落ち着けって億泰…相手は人間かも知れねぇーがやってる事は異様だ。
得体の知れない術を使うかも知れねぇーだろ…」


康一ばかりでは抑えられないと仗助も助太刀し、何とか留まるように促していると
時頃同じくして、今まで一行を見つめていた青年は姿さえ曖昧で霞む程遠くなった事を見届けると
くるりと背を向け、また静かに荒寺の境内へと戻っていったのだった。


一部始終を両の眼にしかと見留た三人は、
何かある前に場を離れたほうが良いと感じ、もと来た道を帰ることにした。
帰路の途中、傾き始めた満月を見上げながら億泰がふと口を開いた。


「なぁ~オイ、なんであの場でとっ捕まえなかったんだぁ?
俺と仗助がいりゃ~大半の奴等は討ち負かせんのは康一だって知ってんだろぉ~」


声色は不満げな音を交えており、口元がやや明後日の方向を向いている。
自他共に認める喧嘩負け知らずであり、腕っ節の強い億泰の手にかかれば確かにお縄をかける事は容易、
同じく腕っ節の強い仗助も一緒ならば尚のこと、しかし仗助が飛び出さなかったのには理由があった。


「なぁ~康一ぃ…お前何か気が付いたんだろ」


並んで歩く真ん中を歩く康一に視線を落としながら仗助が問い掛けると
考えたふうに唸りながら、康一は一つ頷いてみせた。


「半分半分ってところかな…二人とも、これを見てくれないかい」


そう言うと康一は懐から折りたたまれた紙を差し出した。
中を広げてみせると、黒く染まった墨模様に若干の畦土が付いていた。


「さっき僕達が見ていた異形の一行が通った後に残っていたものだよ。
ここ数日、雨もないのに寺周りの畦道が湿っていたから変だなとは思ったんだけど
紙で掬って確かめてみたらこの通りってわけさ…、これじゃないのかな、噴上君が話していた事って。」


「噴上がぁ~…あいつ何か言ってたっけか?」


億泰が首を傾げて聞き返すと、康一が身振りをくわえて話を続ける。


「ほら、町でばったり会って話した時の事だよ。
『あの日の晩は嫌な風が吹いていて、妙にぬるっこくて
湿っぽい古びた書物みたいな変な匂いを感じてたんだ』って。
鼻の良い噴上君ならば異形の一行が通り残した墨の匂いを感じても不思議じゃない、
風に流れて町までやってくるうちに墨の香りが薄まり、曖昧な感覚の中でも
噴上君なりのごく近しいものの例えをしたんじゃあないかな」


康一の言葉に億泰は記憶を遡ってみると、
確かに噴上がそんな話をしていたような…と、薄ら思い出した表情。
仗助も顎に手を当て、話を順序立てながら考えた表情を浮かべていると
康一は手元の紙に染みる墨を指さした。


「しかしこの墨はかなりの上等品だよ、僕達が普段使っている品よりもかなり良いものだ。
畦土を除けば織りの混ぜものも少ないし黒も滑らか…でも、それ以外はなんら変哲も無い。
もし、何か特別な呪いが架かっていたとするならば今頃、この身が無事である筈がないからね」


「おいおい、康一にしたら随分と体当たりな所業だな;」


仗助が苦笑いで康一に言うと、持っていた紙を
大事そうに懐に仕舞いつつけろりとした笑顔で答えが返ってきた。


「たまにはぶつかってみないと壊れない考えはあるものさ…//
そういう仗助君だって、町にいるときと今の顔色じゃ天と地の差があるよ」


「おぉー、そういやお前随分血色良くなったじゃね~か、行き道はぶっ倒れそうな色してたのによぉ~」


目を丸く見開き、億泰が顔を覗き込む仕草をみせると
仗助は慌てて手の平を振って払い除けた。


「まぁー此処に来るまで気乗りしなかったし気分も悪かったんだけどさぁー…
なんて言ったらいいのか上手い言葉がみつからねぇーけど、あの異形の一行には
悪いものを感じなかったっつーか…見たら不思議と気分が落ち着いたのは確かだぜ」


始めに感じた胸騒ぎは何だったのかと思う程、奴らを目にした仗助の心は穏やかになっていった。
危険かも知れないと億泰を止めたのも本心ではあるが、その他は単純に
あの一行の姿をまだ見ていたいと願ったのも事実だった。
これが魅入られるってやつなのか、仗助にはそんな自覚があった。


「おい仗助ぇ~、お前本当に大丈夫かぁ?
化物見て顔色良くなるなんざぁ~聞いたこと無ぇーよ」


「確かに…ここより遥か西の都では、百鬼夜行に遭遇すると命は亡くすばかりか
一族にまで呪いが降りかかると恐れられているんだけどね…
取り憑かれるならまだしも落ち着くなんて、ひょっとして仗助君は人じゃ無いのかもね//」


当然、話を理解してくれたとは思えなかったが、思いの外散々な言われようだった。
しかし心地良さを覚えた仗助は、言い返しては否定することになるとその場は苦笑いで済ますことにした。
和やかな雰囲気の中、漸く自分達の住む町の輪郭が見え始めた頃、
やれやれやっと帰ってきたと安堵する仗助と億泰の耳に、ぼそりと康一の言葉が耳に入った。


「ただ気掛かりな事は未だあってさ…」


どうしたんだと振り返り、康一を見ると悩んだような表情で
顳かみを指で叩く素振りを見せている。


「僕等は漸く、巷の噂の正体を目にしたわけだけど肝心なところはまだ謎のままさ。
あの人が何故、異形の一行を世に放っている目的とか、この残った墨の意味とか…
それに何よりさっきのあの荒寺で見た人…僕、どっかで見たような気がするんだけどなぁ~…」


「見たって事は、直に面識はねぇーのか?」


億泰の言葉に康一は、そうだとも違うとも取れる唸り返事を一つしてみせる。
思い出せそうで出せない、この心に引っ掛かる気持ちの悪さと記憶相手に
必死に戦っている、まさにそんな様子だった。


「でもよぉ~康一、会ったこと有るにしても無くても
あんな月明かり一つで人の顔全部なんざぁ把握できねぇーだろ。
家帰ってゆっくり休めばそのうちふらりと思い出すんじゃねーかな」


仗助の言葉に表情は悩みつつも、それもそうかと康一は頷き返事を返した。
こうして一夜の間に繰り広げられた検分は一先ず決着と相成り、
三人は各々の家へと無事に帰宅することが叶った。


帰り道、一人になった仗助の足取りは軽くなっており、
心は己でも不思議だと思うくらいに良いものだった。
今宵は本当に良い月夜だと空を見上げれば、
静かに浮かぶ満月が微笑んでいるようにも見え
行きと同じく、仗助は一人で笑みを零した


されど、これはほんの始まりに過ぎない。
揺蕩う廻り合せの中では絵巻の結び紐にも足りない出来事。
行先を知るのは、夜空に浮かぶ満月だけである。


~第一章 了~

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