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その後、億泰にはこちらの事情もあるから
後日改めて行こうと説得し、その日は解散となった。
『お天道さんが高いうちは奴らだって出てきやしない、
行くなら相応の時間で無けりゃ意味が無い』と
我ながら上手い説得の仕方をしたと仗助は思っていたが、それは結果的に
自分の首を締めてしまったのだと後々になって気が付いた。
つまり夜も夜中、俗に言う丑三つ時廻りに町外れの古寺に行くと言う
何とも雰囲気満点、さぁ出るぞ、出ても可笑しくないぞという時間帯を指していたのだから…。


話し合いの結果、少しでも明るいほうが良いだろうと言うことになり
三人は満月の晩に正体を確かめてやろうと決め、
次の満月の晩を待って落ち合う段取りを付けた。
いよいよ当日となり、母親に仕事の事情を説明し、
明け方前には帰ると伝えて仗助は家を出た。
気乗りはしないが男に二言も嘘もあっちゃ成らない、
仗助は自分を奮い立たせ待ち合わせの場所へと足を向かわせた。


「いい月夜だなぁ~…夜道に自分の影が出来てるぜ」


後に続く影をちらりと見やると、ずんぐりむっくりな姿をした己の姿に可笑しく思えて笑みを零した。
しかし、これだけ夜が明るければ奴らは姿を現さないのではないだろうかと仗助は少し期待をしていた。
仕事とは言え、普通なら決して近寄ろうともしない化物共に会いに行くなんざ
物見見物、野次馬、冷かしでも正気の沙汰じゃあ無い。
そういう輩には当たらず触らずが一番と決めている手前、それを今日は破ろうとしている。
心持ちは穏やかなはずは無く、そわそわと落ち着きやしないのだった。


「仗助君ー、こっちこっちー」

「お、来やがったな」


北町の外れ、お堀の枝垂柳の下までやってくると、そこには既に同行者の姿があり
仗助へ手を振って、こちらだと合図を送っていた。


「おぉー康一、億泰、待たせたか」

「全然、僕らも今来たところさ」


提灯を片手に手招く康一と、人一倍晴れやかな笑顔をみせる億泰。
辺には自分達以外の人影、姿は無く、町は静まり返っていた。


「しっかし、雰囲気満点て感じじゃねぇーかぁ~//
今時歩くは二八そば屋ぐれ~だし、後は俺達だけって感じだぜ」


夜闇に溶ける町の様子をぐるりと見渡しながら億泰が言うと
仗助も続いて辺を見渡し、頷いてみせた。


「敢えてそういう時間を選んだんだろー、
これがもし十や二十の団体で押し掛けてみろよ、
向こうさんだって驚いて出てこなくなっちまうぜ」


「ガハハッ、そいつは違ぇーねぇーぜ//!」


大きく笑ってみせる億泰を見ながら
そちらの方が心強いな、とも仗助は思ったが口にはしなかった。


「話も程付いたところで、そろそろ出掛けよう。
一時の機会を逃してしまっては検分し損ねてしまうからね」


提灯を揺らしながら康一が二人へ出発の声を掛けると
違いない、と頷き返し、三人は一路、町の東の外れにある寺跡へと向かい歩き始めた。
道すがらに雑談を交えつつ、互いの気を紛らわせていると、思いの外あっという間に、
辺は長屋は勿論、民家も無く寂しい草っ原が広がる土地へと風景を変えていった。


「そういやぁ~よぉ~」


畦道を進む中、ふと億泰が何か思い出したように口を開いた。


「今日、お前等と東の寺跡へ行くって出掛け際に兄貴に話してきたんだけどもがよぉ~
俺、兄貴からよく分からない不思議な話を聞いてきたんだ」


「形兆さんから?」

先頭を歩く康一が歩幅を変えずに相槌答えると、億泰は頷き話を続けた。


「俺達の住んでる北町と噴上が住んでる南町、その間に東と西があるわけだが
今から俺等が行くのは北町の外れ、東の方角、つまりキモン…?
だから用心して行けって兄貴は言うんだぜぇ~お前らキモンって知ってるかぁ?」


「キモン…あぁ、鬼門か…鬼門っ!?」


意味を理解していないらしく首を傾げながら億泰が話す中、
仗助は二、三度そいつを繰り返してみると、ピンと気が付き、途端慌てた様子をみせた。
すると、今度は康一が頬を掻いてボソリと呟いた。


「えっ、てっきり知っているもんだと思ってたんだけど…もしかして今かい、気がついたの?」


やや青ざめた表情に康一が確認すると、仗助は苦笑いで一度だけ頷いてみせた。
その顔には後悔の二文字が浮かんでいるようにもみえる。


「今も今…あっ…~・・・っ、クソォ~行くことばっかりしか頭に無かったぜっ;」


「えぇ~なになに、どういう事なんだよぉ~?」


仗助と康一の顔を交互に見やりながら、話を理解しようと努める億泰。
康一は仗助を宥めつつも、その意味を説明することにした。


「形兆さんが億泰君に話した鬼門て言うのはね、易や占い、
陰陽道で言うところの不吉な場所、北東の方角を指すものなんだ。
艮(うしとら)とも言って鬼が出入りする忌むべき方角とされている。
僕達が向かおうとしている場所も北町の東外れ、つまり鬼門の方角さ。
起こっている事件の内容と風上だという事実を照らし合わせ、
結果、鬼門である北東にある寺跡って事で、何か解決の糸口があると僕は推測したところもあるんだ。」


そこまでの説明で話を掴んだらしい億泰がポンと手の平に拳で槌をついた。
そうか、そうかと頷く億泰は満足そうだが、対する仗助の表情は晴れない。
康一は推測だと言ったが話の筋は通っていて、解り易かったが
何か起こっても不思議じゃあ無いと言われたようなものだったからだ。


「兎にも角にもこの目で確かめてみなくちゃねー…さ、見えてきたよ、あの松の下だ。」


話しながらも歩み続けていた御陰か、三人は思っていたより早く目的地へと到着した。
大方の予想はしていた三人だったが、案の定、目の前にある姿は見るも寂しい朽ち荒れた寺だった。
枯れかかった一本松、すっかり姿を消した正門には木戸があったであろう跡があり、
寺の敷地を囲うように我が物顔で生える雑草達は好きなだけ背丈を伸ばし続けており、
朽ちて崩れた白い土壁が蒼い月光に浮かぶ様は見るからに寂しげで
来るものを拒み、近寄りがたいと雰囲気を醸し出している。


「もうすぐ子の刻も九つ半(大体夜中一時半)になる頃だ、間に合って良かった。
足元の具合が良くないから気を付けてね」


康一はそう言うと、手元に持っていた提灯に息を吹きかけ明かりを消した。
ふわりと油紙の燃え残る匂いがしたかと思えば、次には既に風に流され溶けて消えていった。


「なぁ~んか、程よく風も出てきたじゃあ~ねぇーか…町抜けるまでは吹いて無かったのによぉ~」


「障害物が無い分、よく風も通るんだろうぜ…しっかし、生ぬるくて気持ち悪ィーなぁ…//;」


辺を見回しながら風の方角を確認する億泰に仗助は両腕を摩りながら鼻を一つ鳴らして答えた。
なんだか妙な感覚だ、おっかない、とか、薄気味悪いとは別の…いうなれば胸騒ぎを感じる。
自分は確かにこの手の類が苦手だが、正体の知れない奴等を見ちまった時でも
こんなに身体は騒ぎやしない…せいぜい冷や汗か悪寒ぐらいで終わるんだがな…。


「そうかぁ?俺には気持ちいい夜風だぜぇー、なぁ、康一?」


「え、あ、うん、歩いてきた体にはちょうど良い夜風だよ」


どうやら二人には感じていないらしい、自分だけに感じる気配のようだと仗助は思った。
考え過ぎだと億泰に励まされはしたが、いいや、そうじゃあ無いと思うぜ…
口にはしなかったが仗助には確信があった、此処には何かがいる、
それを今から俺達はとうとう見てしまうのだ、と、いよいよ覚悟を決めたその時だった。

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