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【*pixiv +Twitterログ】無印はsiteのみ。左の記号が目印。今後の予定は【予定表】を参考にお願いします。
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男三人徒然に、やってきたのは杜王町が南町長屋。
木造民家の長屋がずらりと並ぶ通りを抜け、大通りへとやってきた。
「なぁ~康一ィ~、ここで合ってるのかー?」
「そうだよ、この通りで間違いないと思う。」
勝手知ったる同行者の御陰もあり調査は思いの外に捗りをみせ、
町歩きの慣れた先頭を億泰、確認役に康一が続き、その後ろを地図と見比べ仗助が続く。
今いる場所は、ごく最近に人丈程の黒い壁が現れたという路地だが
日の高い今時間にやってきみたものの、やはりそこに壁らしいものも無く
三人の目には至って平凡普通の町角でしかなかった。
「しっかしよぉ~、こんな目立つ場所で夜中とはいえ奴等ぁ~出るのかねぇ?」
一番に声を上げたのは先頭を歩いていた億泰だった。
両腕を組み、とぼけた顔で柄にも無く首を傾げてみせると
続いて康一も訝しげな顔で周囲を見渡し始めた。
「うん、やっぱり変だ…現場に来るまで確証が無かったけれど
この路地で出るとしたら随分と大胆な幽霊もいたものだ、ねぇ、仗助君」
ぐるりと回る視界の中に仗助の姿を捉えた康一が仗助に声をかけてみると
手元に広げた町地図から視線を上げ、やや冴えない顔色を覗かせながら仗助は答えた。
「神出鬼没の輩に大胆も何もねぇーだろぉーよぉ//;
でも、まぁーこうもどうして大通りばっかりなのかは確かに不思議だぜ。
普通は町外れとか山道入口とか人気の無い場所に出るもんじゃねぇーのか;」
一件、二件、三件と現場を回れば回るほど三人はその場所柄に首を傾げずにはいられなかった。
幽霊、物の怪、妖怪などは墓場やら陰さす裏小道、荒寺や井戸場、そういう湿っぽく
人の好まぬ場所を選んで出るのが相場だろう、しかし今目にしてきた場所は全て
人通りの多い大通りや、視界の開けた見通しの良い道ばかりなのだ。
「古典落語や芝居なんかでも、出る場所っていうのは一定で外れがないものだしね。
事実は小説より奇なりとは言うけれど、今どきの妖は目立ちたがり屋なのだろうか…」
そう言うと、康一は頭を抱えつつ辺を見渡し唸り始めた。
予想と違う、何かそれらしき趣があるかと思いきやそれも無い。
陰気な裏方商売に飽きて宵闇から躍り出てきた訳でも有るまいし、
この状況では嫌でも目についてしまう、それは、さも見つけてくれと言わんばかりなのだ。
「んな連中に闊歩されんのは俺は勘弁だぜぇ~仕事になりゃしねぇ~。
しっかし不思議なんだよなぁ~俺も兄貴と昼夜関係無しに大まかな道は見回るけどよぉ~
一度たりともそんな奴等に出会したことなんざぁー無ぇぞ?」
「そう、そこも合点がいかないんだ。
僕らより夜町に出る事の多い億泰君が一度も目にしていないのにも
何か理由はあるはずなんだろうけどなぁ~…」
億泰の言葉に康一の表情は更に難しいものに変わってしまった。
火消し番という仕事柄、見回りも大事な仕事の一つ、
やや鈍感ではあるが仗助、康一よりも遭遇する確率は遥かに高い筈であるにも関わらず
一度も遭遇したことが無いというのも康一の考えに引っ掛かっていた。
「揃った条件と言えばよぉー、大通りが主で、時間は夜から夜中だって事ぐらいだぜぇ?
出る奴等だって幽霊だったり妖怪だったり物の怪だったりって一貫性もねぇーし、
下手すりゃ誰だって見ちまう可能性はあるって事だろ?…どーなってんだよ、この事件;」
眉間に皺を寄せながら仗助は手元の地図に最後の印をつけると
改めてそいつを睨んでみせたが答えが浮き上がってくるはずも無く考えは拗れるばかり。
「でもよぉ~俺も一回で言いから見てみてぇーなぁ~、面白そうだしよぉ//」
「億泰オメェー物好きにも程があんだろう、
取り憑かれるとかとって食われるっては考え無ぇーの?」
「仗助君、億泰君の場合は怖いものみたさって奴だよ、きっと//;」
文字通り、行き詰まり、途方にくれようとしている三人が
溜息を交えて言い合っている真下、時同じくして近づく足音が一つあった。
様子を伺っていたのだろうが、何やら面白いニオイを嗅ぎつけてか
うすら笑いを浮かべながら摺った足音と共に、その人物は親しげに声を掛けてきた。
「なぁ~んだ、なんだ、野郎が雁首揃えてシケた面ならべちゃってよぉ~」
聞き覚えのある声に、三人が視線を向けると
特製の黒羽織を引っ掛け、腰元には銀色に輝く十手を携えた岡引姿の男が一人。
堂々と三人の輪の中に入り込むと、億泰の肩に手を回して寄りかかってきた。
「おぉ~、噴上じゃねぇーかぁ~、なんだテメェーこそ昼間っからサボリかぁ?」
「冗談キツいぜぇ、これでも立派に見回りお勤めしてる真っ最中だぜ?」
噴上裕也、南町奉行所管轄下で働く岡引であった。
岡引の中には元々罪人で奉行所に世話になった奴もおり、噴上もそのうちの一人だ。
巷ではちょいと噂になったらしい腕利きの泥棒も今は改心し、こうして立派に勤めを果たしている
億泰とは馬が合うらしく、度々酒に誘っては朝まで飲み勝負をしている仲だった。
「絡むなよ裕也、俺達だって勤めの最中だってんだ。
邪魔すんなら他所に当たれよ」
町地図を小脇に下ろし、腕を組んだ仗助が言うと
墳上は鼻で笑いながら億泰から肩を離し、羽織の襟を正した。
「オイオイオイ~…そうカッカするもんじゃねぇーぜ、仗助。
俺の通り道でシケた雰囲気流されちゃー自慢の鼻が効かなくなっちまうんだよ、
広瀬の坊っちゃんも、ンな難しい顔してるといいモン逃げてくぜー?」
「そうは言うけど、こればっかりは僕らも仕事だし
いい案でも浮かばない限り悩むさ、噴上君…//;」
噴上がこう言うにも理由はあった。
本人曰く、自分には昔っから不思議な力があるのだという。
以前の商い、まだ噴上が盗っ人を生業としていた頃にも
こいつ無しでは成立しない大切な商売道具の一つだったそうだ。
人の気配や性別は序の口、お宝の在処や気配を忍ばせ潜む用心棒の匂いまで
自慢の鼻にかかれば一目瞭然、いや一鼻瞭然とばかりに判るのだという。
そのおかげか足も付かずに盗み出し、役人を欺き続け幾年月…
事件は闇に葬られるだろうとまで言われ、捜査がすっかり暗礁に乗り上げようとしていたが
突然、ひょっこり自首したのだという…理由は特に無いと本人が言い通しお縄についたそうだ。
当時の奉行所では結構な騒ぎになったと、仗助、康一は兄役からの小話で耳にしていた。
それが今現在、こうして部所は違えど同じ仕事をする者同士になっているのだから
世の中の廻り合せって奴は奇妙なものだと仗助、康一は思わずにはいられなかった。
何時から此方の様子を見ていてかは知れないが、大体の事情を察した墳上は
足を組んで顎に手を当てつつ話し始めた。
「お前等が此処にいるって事は何だ、例の化物騒ぎの検分に出されたんだろ?
だったら耳寄りな話があんだけどよ、ちょうど数日前にバケモノが出たって大通り、まさにこの辺りだ…。
その時間帯に、俺はこの辺りの見回り中だったんだぜ」
「何っ、それ本当かっ…」
噴上の言葉に康一は驚いた表情を浮かべ、仗助は声を上げた。
やや自慢げな笑みを浮かべ、墳上は今自分たちが歩いてきた通りの先を指差しながら話を続ける。
「あの日の晩は嫌な風が吹いててよぉ~…
妙にぬるっこくて湿っぽい、古びた書物みてぇーな変な匂いを感じてたんだ。
こういう違和感のある夜は用心するに越したことはねぇ~し、俺も気と鼻を利かせて夜回りしてたんだぜ。
そんで、小道抜けたこの大通りに出た途端、品の無い野郎の悲鳴が聞こえてきたっつーわけさ。」
「それじゃ、噴上君は妖を見たっていう南町奉行所のお役人方に当日の晩、会ったってことかい?」
今度は康一が確かめるように聞き返すと、墳上は頷いて指差す方向を傾けた。
そこはちょうど、大通りと小道の曲がり角に向けられており、そこだと言わんばかりに
空に円を書いて場所を示した場所は正に、先程自分達が見聞していた場所に相違無かった。
「あったも何も、奴さん達を奉行所まで運んだのは俺だぜぇ?
腰抜かすわ喋れねぇーわ取り乱すわで落ち着かせんのにエラい苦労したぜ//;
そら、ちょうどその角っこだ、だがそんときの俺には鼠一匹、夜鳥一羽の姿もなかったけどよぉー」
話し終えると噴上は指を下げ、羽織の中に両腕を仕舞うと二三度首を鳴らして見せた。
これは意外な奴から話が聞けたと仗助、康一が思っていると
何か思い出したように墳上は億泰へと視線を向けた。
「テメェーの方はどうだったんだ億泰、俺とあの晩出会したって事は
北町も同時刻に見回りしてたんだろ?」
「あたぼうよ、火消し番をなめるんじゃあーねぇーぜ!
俺も同じ時刻に仲間連中引いて夜回りしてたってんだ!」
意性良く答える億泰に、そんな話は初耳だと視線を向けた仗助と康一。
確かに風の吹く晩に火消しが夜回りをしていても不思議では無いが
自分が行った等とは一言も言っていなかったではないか。
「オイ、どういう事だ、億泰よぉ~…」
眉を八の字に歪めながら仗助が問い掛けると億泰はけろりとした表情で話し始めた。
「アレ…俺、オメェー達に言ってなかったけか?
場所は離れちゃいるけど俺も当日夜回りしててよぉ~、でも火種も化け物も出ず終いで
無事見廻り終えた帰り道、偶然噴上に会って酒引っ掛けて帰ったんだけども…
まさか化物が出てたなんざぁ…オイ、噴上ーオメェーそん時、んな話してなかったじゃねぇーかっ!」
その時の事を思い出してか、話の矛先が外れようとしている億泰に噴上は首を振って真顔で答えた。
「俺だって後日聞かされた話だっつーんだよ、あの晩に運んだ三人方は
とてもじゃねぇーけど喋れるような状態じゃあーなかったぜ、笑っちまうくらいによぉ~//」
クククと腹を持ち上げるような含笑いを漏らすと、噴上は鼻を一つ鳴らし
羽織から腕を抜き出すと、パンッと渇いた音と共に袖を正して姿勢を伸ばした。
「んじゃー俺はそろそろ御暇するぜ、今日は花街で女達が待ってるからよぉー。
お勤め検分ご苦労さん、近いうち酒飲み付き合えよ、じゃーな」
聞いてもいないが言いたい事を全て伝えたかと思えば
挨拶もそこそこに墳上はさっさとその場から居なくなってしまった。
特別何をしたわけでもないのだが、噴上と話すと何故か仗助は疲れを覚える。
悪い奴ではなんだが…と、後ろ手で頭を掻きながら去る後ろ姿を見ていると
不意に康一が何か閃いたように一声上げてみせた。
「あっ…」
「あっ、って何だよ康一ぃ~、急にすっとんきょんな声上げちゃって…」
腕組み姿の億泰が康一の表情を覗きながら聞き返すと
何かを指さす素振りを見せながら康一は確かめるように二三度頷いて見せた。
「さっきの噴上君の話で気になる事があったんだけど、億泰君。
あの日の晩は北町でも確かに風が吹いていたんだよね?」
「おうよ、確かに横っ風が吹いてたぜ」
「仗助君、印を付けた地図を貸してくれないか?」
「あ、あぁ…ほらよ」
仗助が差し出した町地図を受け取ると、康一は両手いっぱいに広げてみせ
赤く印された場所を指で差しながらまた二三度頷いて確信した表情を見せたが
傍から見ている二人にすればさっぱり意味がわからないままである。
「さっきからどうしたってんだよ康一、なんか分かったのか?」
仗助が康一の手元を覗き込みながら理由を聞いてみると
突っかかりが取れ、晴れやかになった康一は顔を上げて答え始めた。
「ごめんよ、一人で考え走ってしまって…//;
でも、何故、妖達が大通りで目撃されるかの理由がやっと分かったんだ。
二人にも説明するから地図を見て欲しい」
言われるままに仗助、億泰が左右から町地図を覗き込むと、
康一は指差しを交えながら自分の見解を話し始めた。
「何故に小道や山道じゃあ無く、大通り周辺に奴等が現れるかを僕達は考えていたけど
答えは全くの逆だったんだ、奴等は最終的に大通りに出る他に道が無かったんだよ。
地図にある通り、町は碁盤の目のように区切られているだろう?
こういう場所では長屋の壁や同じように張り巡らされた水路なんかを介して風は通り道を作り吹き抜ける。
古い伝承で夜に口笛を吹くと風が吹いて海が荒れ、悪霊、鬼、妖怪を呼び寄せると言うし、
よく蛇が出ると言うけれど、あれは『蛇=へび』では無く『蛇=じゃ=邪』と置き換えられると読んだことがあるんだ。
俄には信じられないかも知れないが幽霊、妖怪、物の怪、妖が夜風に乗ってさ迷い、
最終的に風の集まる大通りに出る途中に各々出会したとするならば話の筋道が成立するんだよ。」
説明と共に、今まで印をつけた場所を指でなぞりみせると
確かにそれらは全て各町の大通り、或いは直ぐ近くで起こっており
康一の見解に矛盾は無く、仗助、億泰の二人も異論は無かった。
「今更だけどよぉ~、これだけ多発してるって事は人間連中の起こす仕業じゃねぇーのは確かだな。
最初は気の違った愉快犯かとも思ったけどよぉー、どうやらそうじゃあ無いらしい。」
「つまり、は…風に乗ってやってくる事を考えれば奴等の出元は風上ってー話になるよなぁ~康一」
仗助に続き、億泰も己の見解を見出すと三人は顔を見合わせ大きく頷き、
改めて町地図の隅から隅まで目を通し、やがて一ヶ所で全員の意見が合う場所を見つけ出した。
「ここだ、東の町の外れも外れにある古い寺」
いの一番に指差し、場所を確認したのは康一だった。
続いて仗助も寺周りの地形を確認するように指でぐるりと辺をなぞり囲って話に続く。
「民家も近くに無ぇーし、裏は直ぐに山になってやがる…
山から吹き降ろす強風が町に流れると考えりゃー奴等が運ばれてくるのにもうってつけってわけだ」
「こりゃイイぜ、ドンピシャリって決まりじゃねぇーか!さっそく行って正体確かめてやろうぜー//!」
言うが早いか、場所を見出した億泰は両足がすっ飛んだ足取りで駆け出した。
しかし、肝心な事を忘れている、今はまだ日が高い、当然奴らが出るわけの無い時間帯なのだが
億泰の考えには抜けてしまっているらしいかった。
「待てよ億泰ー!!オメェーはいいかも知れねぇーけど俺達は仕事っ…
あーーもう、待てって!少し落ち着けってんだよぉー!!」
駆ける背中に呼び止めながら仗助が後を追うも、当人の耳には聞こえていないらしかった。
まるで何かの喜劇みたいだと、そんな二人の背中を康一は苦笑いを浮かべながら
大通りに遠くなる二人の背中を見失わない程度の急ぎ足で後を追ったのだった。
木造民家の長屋がずらりと並ぶ通りを抜け、大通りへとやってきた。
「なぁ~康一ィ~、ここで合ってるのかー?」
「そうだよ、この通りで間違いないと思う。」
勝手知ったる同行者の御陰もあり調査は思いの外に捗りをみせ、
町歩きの慣れた先頭を億泰、確認役に康一が続き、その後ろを地図と見比べ仗助が続く。
今いる場所は、ごく最近に人丈程の黒い壁が現れたという路地だが
日の高い今時間にやってきみたものの、やはりそこに壁らしいものも無く
三人の目には至って平凡普通の町角でしかなかった。
「しっかしよぉ~、こんな目立つ場所で夜中とはいえ奴等ぁ~出るのかねぇ?」
一番に声を上げたのは先頭を歩いていた億泰だった。
両腕を組み、とぼけた顔で柄にも無く首を傾げてみせると
続いて康一も訝しげな顔で周囲を見渡し始めた。
「うん、やっぱり変だ…現場に来るまで確証が無かったけれど
この路地で出るとしたら随分と大胆な幽霊もいたものだ、ねぇ、仗助君」
ぐるりと回る視界の中に仗助の姿を捉えた康一が仗助に声をかけてみると
手元に広げた町地図から視線を上げ、やや冴えない顔色を覗かせながら仗助は答えた。
「神出鬼没の輩に大胆も何もねぇーだろぉーよぉ//;
でも、まぁーこうもどうして大通りばっかりなのかは確かに不思議だぜ。
普通は町外れとか山道入口とか人気の無い場所に出るもんじゃねぇーのか;」
一件、二件、三件と現場を回れば回るほど三人はその場所柄に首を傾げずにはいられなかった。
幽霊、物の怪、妖怪などは墓場やら陰さす裏小道、荒寺や井戸場、そういう湿っぽく
人の好まぬ場所を選んで出るのが相場だろう、しかし今目にしてきた場所は全て
人通りの多い大通りや、視界の開けた見通しの良い道ばかりなのだ。
「古典落語や芝居なんかでも、出る場所っていうのは一定で外れがないものだしね。
事実は小説より奇なりとは言うけれど、今どきの妖は目立ちたがり屋なのだろうか…」
そう言うと、康一は頭を抱えつつ辺を見渡し唸り始めた。
予想と違う、何かそれらしき趣があるかと思いきやそれも無い。
陰気な裏方商売に飽きて宵闇から躍り出てきた訳でも有るまいし、
この状況では嫌でも目についてしまう、それは、さも見つけてくれと言わんばかりなのだ。
「んな連中に闊歩されんのは俺は勘弁だぜぇ~仕事になりゃしねぇ~。
しっかし不思議なんだよなぁ~俺も兄貴と昼夜関係無しに大まかな道は見回るけどよぉ~
一度たりともそんな奴等に出会したことなんざぁー無ぇぞ?」
「そう、そこも合点がいかないんだ。
僕らより夜町に出る事の多い億泰君が一度も目にしていないのにも
何か理由はあるはずなんだろうけどなぁ~…」
億泰の言葉に康一の表情は更に難しいものに変わってしまった。
火消し番という仕事柄、見回りも大事な仕事の一つ、
やや鈍感ではあるが仗助、康一よりも遭遇する確率は遥かに高い筈であるにも関わらず
一度も遭遇したことが無いというのも康一の考えに引っ掛かっていた。
「揃った条件と言えばよぉー、大通りが主で、時間は夜から夜中だって事ぐらいだぜぇ?
出る奴等だって幽霊だったり妖怪だったり物の怪だったりって一貫性もねぇーし、
下手すりゃ誰だって見ちまう可能性はあるって事だろ?…どーなってんだよ、この事件;」
眉間に皺を寄せながら仗助は手元の地図に最後の印をつけると
改めてそいつを睨んでみせたが答えが浮き上がってくるはずも無く考えは拗れるばかり。
「でもよぉ~俺も一回で言いから見てみてぇーなぁ~、面白そうだしよぉ//」
「億泰オメェー物好きにも程があんだろう、
取り憑かれるとかとって食われるっては考え無ぇーの?」
「仗助君、億泰君の場合は怖いものみたさって奴だよ、きっと//;」
文字通り、行き詰まり、途方にくれようとしている三人が
溜息を交えて言い合っている真下、時同じくして近づく足音が一つあった。
様子を伺っていたのだろうが、何やら面白いニオイを嗅ぎつけてか
うすら笑いを浮かべながら摺った足音と共に、その人物は親しげに声を掛けてきた。
「なぁ~んだ、なんだ、野郎が雁首揃えてシケた面ならべちゃってよぉ~」
聞き覚えのある声に、三人が視線を向けると
特製の黒羽織を引っ掛け、腰元には銀色に輝く十手を携えた岡引姿の男が一人。
堂々と三人の輪の中に入り込むと、億泰の肩に手を回して寄りかかってきた。
「おぉ~、噴上じゃねぇーかぁ~、なんだテメェーこそ昼間っからサボリかぁ?」
「冗談キツいぜぇ、これでも立派に見回りお勤めしてる真っ最中だぜ?」
噴上裕也、南町奉行所管轄下で働く岡引であった。
岡引の中には元々罪人で奉行所に世話になった奴もおり、噴上もそのうちの一人だ。
巷ではちょいと噂になったらしい腕利きの泥棒も今は改心し、こうして立派に勤めを果たしている
億泰とは馬が合うらしく、度々酒に誘っては朝まで飲み勝負をしている仲だった。
「絡むなよ裕也、俺達だって勤めの最中だってんだ。
邪魔すんなら他所に当たれよ」
町地図を小脇に下ろし、腕を組んだ仗助が言うと
墳上は鼻で笑いながら億泰から肩を離し、羽織の襟を正した。
「オイオイオイ~…そうカッカするもんじゃねぇーぜ、仗助。
俺の通り道でシケた雰囲気流されちゃー自慢の鼻が効かなくなっちまうんだよ、
広瀬の坊っちゃんも、ンな難しい顔してるといいモン逃げてくぜー?」
「そうは言うけど、こればっかりは僕らも仕事だし
いい案でも浮かばない限り悩むさ、噴上君…//;」
噴上がこう言うにも理由はあった。
本人曰く、自分には昔っから不思議な力があるのだという。
以前の商い、まだ噴上が盗っ人を生業としていた頃にも
こいつ無しでは成立しない大切な商売道具の一つだったそうだ。
人の気配や性別は序の口、お宝の在処や気配を忍ばせ潜む用心棒の匂いまで
自慢の鼻にかかれば一目瞭然、いや一鼻瞭然とばかりに判るのだという。
そのおかげか足も付かずに盗み出し、役人を欺き続け幾年月…
事件は闇に葬られるだろうとまで言われ、捜査がすっかり暗礁に乗り上げようとしていたが
突然、ひょっこり自首したのだという…理由は特に無いと本人が言い通しお縄についたそうだ。
当時の奉行所では結構な騒ぎになったと、仗助、康一は兄役からの小話で耳にしていた。
それが今現在、こうして部所は違えど同じ仕事をする者同士になっているのだから
世の中の廻り合せって奴は奇妙なものだと仗助、康一は思わずにはいられなかった。
何時から此方の様子を見ていてかは知れないが、大体の事情を察した墳上は
足を組んで顎に手を当てつつ話し始めた。
「お前等が此処にいるって事は何だ、例の化物騒ぎの検分に出されたんだろ?
だったら耳寄りな話があんだけどよ、ちょうど数日前にバケモノが出たって大通り、まさにこの辺りだ…。
その時間帯に、俺はこの辺りの見回り中だったんだぜ」
「何っ、それ本当かっ…」
噴上の言葉に康一は驚いた表情を浮かべ、仗助は声を上げた。
やや自慢げな笑みを浮かべ、墳上は今自分たちが歩いてきた通りの先を指差しながら話を続ける。
「あの日の晩は嫌な風が吹いててよぉ~…
妙にぬるっこくて湿っぽい、古びた書物みてぇーな変な匂いを感じてたんだ。
こういう違和感のある夜は用心するに越したことはねぇ~し、俺も気と鼻を利かせて夜回りしてたんだぜ。
そんで、小道抜けたこの大通りに出た途端、品の無い野郎の悲鳴が聞こえてきたっつーわけさ。」
「それじゃ、噴上君は妖を見たっていう南町奉行所のお役人方に当日の晩、会ったってことかい?」
今度は康一が確かめるように聞き返すと、墳上は頷いて指差す方向を傾けた。
そこはちょうど、大通りと小道の曲がり角に向けられており、そこだと言わんばかりに
空に円を書いて場所を示した場所は正に、先程自分達が見聞していた場所に相違無かった。
「あったも何も、奴さん達を奉行所まで運んだのは俺だぜぇ?
腰抜かすわ喋れねぇーわ取り乱すわで落ち着かせんのにエラい苦労したぜ//;
そら、ちょうどその角っこだ、だがそんときの俺には鼠一匹、夜鳥一羽の姿もなかったけどよぉー」
話し終えると噴上は指を下げ、羽織の中に両腕を仕舞うと二三度首を鳴らして見せた。
これは意外な奴から話が聞けたと仗助、康一が思っていると
何か思い出したように墳上は億泰へと視線を向けた。
「テメェーの方はどうだったんだ億泰、俺とあの晩出会したって事は
北町も同時刻に見回りしてたんだろ?」
「あたぼうよ、火消し番をなめるんじゃあーねぇーぜ!
俺も同じ時刻に仲間連中引いて夜回りしてたってんだ!」
意性良く答える億泰に、そんな話は初耳だと視線を向けた仗助と康一。
確かに風の吹く晩に火消しが夜回りをしていても不思議では無いが
自分が行った等とは一言も言っていなかったではないか。
「オイ、どういう事だ、億泰よぉ~…」
眉を八の字に歪めながら仗助が問い掛けると億泰はけろりとした表情で話し始めた。
「アレ…俺、オメェー達に言ってなかったけか?
場所は離れちゃいるけど俺も当日夜回りしててよぉ~、でも火種も化け物も出ず終いで
無事見廻り終えた帰り道、偶然噴上に会って酒引っ掛けて帰ったんだけども…
まさか化物が出てたなんざぁ…オイ、噴上ーオメェーそん時、んな話してなかったじゃねぇーかっ!」
その時の事を思い出してか、話の矛先が外れようとしている億泰に噴上は首を振って真顔で答えた。
「俺だって後日聞かされた話だっつーんだよ、あの晩に運んだ三人方は
とてもじゃねぇーけど喋れるような状態じゃあーなかったぜ、笑っちまうくらいによぉ~//」
クククと腹を持ち上げるような含笑いを漏らすと、噴上は鼻を一つ鳴らし
羽織から腕を抜き出すと、パンッと渇いた音と共に袖を正して姿勢を伸ばした。
「んじゃー俺はそろそろ御暇するぜ、今日は花街で女達が待ってるからよぉー。
お勤め検分ご苦労さん、近いうち酒飲み付き合えよ、じゃーな」
聞いてもいないが言いたい事を全て伝えたかと思えば
挨拶もそこそこに墳上はさっさとその場から居なくなってしまった。
特別何をしたわけでもないのだが、噴上と話すと何故か仗助は疲れを覚える。
悪い奴ではなんだが…と、後ろ手で頭を掻きながら去る後ろ姿を見ていると
不意に康一が何か閃いたように一声上げてみせた。
「あっ…」
「あっ、って何だよ康一ぃ~、急にすっとんきょんな声上げちゃって…」
腕組み姿の億泰が康一の表情を覗きながら聞き返すと
何かを指さす素振りを見せながら康一は確かめるように二三度頷いて見せた。
「さっきの噴上君の話で気になる事があったんだけど、億泰君。
あの日の晩は北町でも確かに風が吹いていたんだよね?」
「おうよ、確かに横っ風が吹いてたぜ」
「仗助君、印を付けた地図を貸してくれないか?」
「あ、あぁ…ほらよ」
仗助が差し出した町地図を受け取ると、康一は両手いっぱいに広げてみせ
赤く印された場所を指で差しながらまた二三度頷いて確信した表情を見せたが
傍から見ている二人にすればさっぱり意味がわからないままである。
「さっきからどうしたってんだよ康一、なんか分かったのか?」
仗助が康一の手元を覗き込みながら理由を聞いてみると
突っかかりが取れ、晴れやかになった康一は顔を上げて答え始めた。
「ごめんよ、一人で考え走ってしまって…//;
でも、何故、妖達が大通りで目撃されるかの理由がやっと分かったんだ。
二人にも説明するから地図を見て欲しい」
言われるままに仗助、億泰が左右から町地図を覗き込むと、
康一は指差しを交えながら自分の見解を話し始めた。
「何故に小道や山道じゃあ無く、大通り周辺に奴等が現れるかを僕達は考えていたけど
答えは全くの逆だったんだ、奴等は最終的に大通りに出る他に道が無かったんだよ。
地図にある通り、町は碁盤の目のように区切られているだろう?
こういう場所では長屋の壁や同じように張り巡らされた水路なんかを介して風は通り道を作り吹き抜ける。
古い伝承で夜に口笛を吹くと風が吹いて海が荒れ、悪霊、鬼、妖怪を呼び寄せると言うし、
よく蛇が出ると言うけれど、あれは『蛇=へび』では無く『蛇=じゃ=邪』と置き換えられると読んだことがあるんだ。
俄には信じられないかも知れないが幽霊、妖怪、物の怪、妖が夜風に乗ってさ迷い、
最終的に風の集まる大通りに出る途中に各々出会したとするならば話の筋道が成立するんだよ。」
説明と共に、今まで印をつけた場所を指でなぞりみせると
確かにそれらは全て各町の大通り、或いは直ぐ近くで起こっており
康一の見解に矛盾は無く、仗助、億泰の二人も異論は無かった。
「今更だけどよぉ~、これだけ多発してるって事は人間連中の起こす仕業じゃねぇーのは確かだな。
最初は気の違った愉快犯かとも思ったけどよぉー、どうやらそうじゃあ無いらしい。」
「つまり、は…風に乗ってやってくる事を考えれば奴等の出元は風上ってー話になるよなぁ~康一」
仗助に続き、億泰も己の見解を見出すと三人は顔を見合わせ大きく頷き、
改めて町地図の隅から隅まで目を通し、やがて一ヶ所で全員の意見が合う場所を見つけ出した。
「ここだ、東の町の外れも外れにある古い寺」
いの一番に指差し、場所を確認したのは康一だった。
続いて仗助も寺周りの地形を確認するように指でぐるりと辺をなぞり囲って話に続く。
「民家も近くに無ぇーし、裏は直ぐに山になってやがる…
山から吹き降ろす強風が町に流れると考えりゃー奴等が運ばれてくるのにもうってつけってわけだ」
「こりゃイイぜ、ドンピシャリって決まりじゃねぇーか!さっそく行って正体確かめてやろうぜー//!」
言うが早いか、場所を見出した億泰は両足がすっ飛んだ足取りで駆け出した。
しかし、肝心な事を忘れている、今はまだ日が高い、当然奴らが出るわけの無い時間帯なのだが
億泰の考えには抜けてしまっているらしいかった。
「待てよ億泰ー!!オメェーはいいかも知れねぇーけど俺達は仕事っ…
あーーもう、待てって!少し落ち着けってんだよぉー!!」
駆ける背中に呼び止めながら仗助が後を追うも、当人の耳には聞こえていないらしかった。
まるで何かの喜劇みたいだと、そんな二人の背中を康一は苦笑いを浮かべながら
大通りに遠くなる二人の背中を見失わない程度の急ぎ足で後を追ったのだった。
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