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昨夜の検分から明けて翌日。
仕事場の一室で仗助は筆を片手に書物と向き合っていた、昨晩の報告書である。
いつも通りならば検分内容を有りの侭に記し、提出するればそれで完了となるが
今回ばかりはサラリと書き纏める事が出来ずにいた。
いくら目の前で見てきたからと言って、いざ文字に書き起こして提出しても
おいそれと信じて貰えるとは思えない上に、下手すりゃ俺が変な目で見られかねないからだ。


「~~…っ、流石に眠たくなってきたぜ…」


筆を指間に遊ばせながら、寝不足気味の頭で考えてみるも良案は浮かんでこなかった。
帰宅した後、早々に寝支度を整え床に着きはしたが、興奮冷めやらぬとでもいうのか
瞼を閉じても寝付かれず、良い具合を探すのに寝返りを打っていると
徐々に辺は明るみ始め、やがて間も無く朝を迎えていた。


「さぁ~て、どうするか……っふ…~ぁ~…//」


間抜けな大欠伸を一つ吐き、涙で霞む白紙の書物に視線を落とす。
多少現実味を帯びた脚色でそれっぽい事を組み立てればいいのだろうが
それは真にあらず、仗助は仕事に対して真面目だった。
進まず纏まらずを繰り返していると、廊下の先から足音が一つ聞こえてきた。
軽目の踏音を鳴らしながら一歩一歩と歩んでくると、自分の部屋の前で止まり
素早く障子戸が引き開けられると、そこには康一が立っていた。


「良かった仗助君、部屋に居たんだね!今時間大丈夫かい?」


足音に反し、康一の様子は慌てており、何事かと思いつつ仗助は部屋へ招き入れた。
手早く机上の書物を閉じて筆を片付けると、向かい側に腰を下ろした康一は
小脇に抱えた瓦版を机上に広げてみせた。


「先ずは昨日はお疲れ様、その様子じゃ寝付けなかったみたいだね//;」


「あぁ~…どうにもこうにも眠気が来なくてよぉ…気が付いたら明け方だったぜ;
今頃になって眠たくてしょうがねぇーよ」


肩肘に胡座で眠気に耐える仗助の表情に、僕もやや眠たいよと康一は笑って見せた。


「それでどーしたんだ、兄役からの提出催促なら今しばらく係るぞ。」


「いいや、そうじゃ無いんだ、僕も報告書出来ていないから
そのへんは上手く言っておいたよ、これを見て欲しくて飛んできたんだ。」


そういうと康一は瓦版の大記事を指差してみせた。
どれどれと仗助が覗き込むと、それはとある絵師の事が書かれていた。


「『新進気鋭の人気若手絵師、岸辺露伴、いよいよ新作絵巻物出版決定なり。
初作から最も人気の妖怪画を含め、門外不出の書下ろし数点を公開。
妖艶奇譚、絵筆より紡がれ彩られし物見逃すべからず』…へぇー、新書の広告か?」


指さされるままに内容を読み上げる仗助だったが、正直なところ画などに興味は無かった。
内容を読むところによれば、随分と人気な絵師らしいが宣伝の仕方が少々大袈裟なようにも思える。


「そうなんだ、とうとう出るって町中じゃたいそうな大騒ぎになっている大人気の絵師でさ、
もともと東都で活動していたそうなんだが故郷であるこの杜王に戻って来ているんだ。
風俗画から物語の挿絵、美人画、風景画からその分野に留まることを知らないが、
なかでもとりわけ評判なのが妖怪画でね、見るものは作品の中に引きずり込まれる。
まぁ実際そんな事は有り得ない事なのだけれど、それ程魅入られ魅了され憑かれるのたとえだろうね
ただ少し変わり者で滅多に人前に姿を現さない、故に幻の天才絵師とさえ…」


康一の口は饒舌に次々と言葉を並べて止まることを知らない。
身体を乗り出し、話しが進むに連れてずいずいと顔が近寄ってくる。
最初は黙って聞いていた仗助だが、これは止めにゃー収まらないぞと
片手を翳して待ったの合図を出した。


「わかった、相分かったから落ち着け康一…//;
どうしたってんだ、いつもは静かなお前がやけに興奮しちまって…」


「あっ……//;」


驚顔と苦笑いを見せながら仗助がいうと、はたと我に返った康一は咳払いを一つすると、再び腰を戻した。
普段はもの大人しい康一に珍しい事もあるものだと思いつつ、仗助は片手を下ろして尋ねた。


「それで、お前を熱狂させる絵師の記事がどうかしたのか?
余程の人物だということはわかったがよぉ~」


「すまないすまない、ちょっと興奮してしまって…//;
本題に戻ろう、実は今、この奉行所に岸辺露伴が来ているんだよ」


勢いからポンと両膝を叩いて康一は言うが、
仗助からすれはそれがどうしたといった心持ちだった。
そもそもに絵や読物などに興味の無い仗助は、その手の話には全く疎い。
相変わらずの聞き手姿勢でいると、康一の口がまた動き始めた。


「先程、僕は仕事用事の使いを済ませてから出勤したのだけれど、なにやら奉行所門前が騒がしくなっててさ。
事情を知ろうと近づくと、どうやら謂れのない言い掛かりを付けられらしい人物が入門を拒否しながら声をあげてるらしかった。
顔を見て驚いたよ、まさか何かの間違いだろうってさ」


「でもよぉ~、奉行所に同行願いを出されたんだから何か理由があるんだろうぜ。」


奉行所にやってくる理由と言えば、人目憚りおおよそ穏やかな内容ではない。
しかし、これだけ人気の絵師なのだから一つや二つ騒ぎを起こしても不思議じゃないかと
仗助は軽い気持ちで康一に相槌を返すと、スッと目の前の姿が立ち上がった。


「まぁー兎に角、一緒に門先まで来てくれないかい?
僕だけでは話が付けられそうにないし、仗助君にも岸辺露伴を見て欲しいんだ」



そう言うと康一は仗助の返事も待たずに腕を引き急かし立たせると、戸を引き開けて部屋から連れ出した。
いよいよ今日の康一は可笑しいぞ、悪いものでも食って当たったんだろうか…
大体、俺は岸辺露伴なんて奴は今先ほどまで名前を聞くまで知りもし無かったんだぞ?
なのにソイツを見て欲しいとは一体…内心、首を傾げつつも
目の前を歩く康一の背中に着いて行くこと暫く、廊下を抜けた先に見える門前では確かに
何か騒ぎが起きているらしく数人のがやついた声が交応して揉めていた。


『だから、僕は謂れのない疑いでしょっぴかれるのは不当だと言っているんだよ!
誰かがつきっきりで見ていたわけでもあるまいし証拠も何も無いだろう、馬鹿な話は寝言で言いやがれ』


『貴っ様、下役にも無礼であるぞっ!口の利き方に気を付けんかっ!!』

『無礼もクソッタレもあるかっ!言われない疑いかけられて僕は実に気分が悪いんだ!
その事に対する謝罪を貰ってもまだ足りやしないぜっ!』


遠くに聞いても圧巻の剣幕、奉行所門番も応戦するが正直、迫力負けしているのは聴くに確かだった。
こいつはスゲェーな…役人相手に怖いものなしといった様子、岸辺露伴という奴は中々肝の座った野郎らしい。
徐々に近づき、ひょいと柱越しに様子を見やると、そこには門番二人と真っ向に言い争う一人の青年の姿が目に映った。


『これ以上の口答えはお上に対する侮辱であるぞっ、その身が大事ならば慎め!』

『何だと…、大名が怖くてものが言えない僕だとでも思ったのか、それこそ僕に対する侮辱だと知れっ!!』


同行されてきたにしては堂々としており、物言いも人一倍偉そうに聞こえる。
とんでもないぜ…と思いながらも仗助は物言う青年へ目を向けると途端、表情が固まってしまった。
日の下に照らされる雪のような白肌、緑の混じる黒髪、それは間違いなく
昨晩、あの荒寺で見た青年の姿と寸分狂わず重なったのだった。


「まじ…かよ…」

「そうさ、仗助君も理由が分かってくれたみたいだね」


驚きに口の開いた仗助に、直ぐ間近で呟く康一の声。
来いと行った理由はこれかと納得していると、袖を二三度引っ張られた。


「そろそろ止めに入った方が良さそうだ…;」


隣ではらはらした表情を浮かべながら呟く康一に
未だ目の前の青年の姿に動揺しつつも仗助は頷いて見せた。
自分達のやりとりの真下にもますます火熱する物言いは止む気配も無い。
これ以上は流石に不味いだろうと踏んだ二人は口争い場に飛び出すことにした。

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