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【anbient】


今し方完成したばかりの原稿を睨みつけながら
僕は仕事用の椅子に肩肘をついていた。

気に入らない。

内容、構図、ストーリー、出来栄えには納得はしている
しかし僕の心がそれを良しとしない、それは何故か。
僕の脳内をとある言葉がうっとおしく付き纏うせいで
何をしていても心地の良さを感じられやしなかった。


僕の脳内を駆け回る言葉を残していった男、東方仗助。
奴は僕の作品を読まない、僕自身も別に読んで欲しいとも、読んでくれとも思わない。
価値観なんて人それぞれだろう、強制するなんて愚か者のすることだと僕は思っている。
世間的にも僕の作品は好き嫌いがはっきり分かれているのも知っていた。
それが世間の評価、だが好ましいという読者の為にも僕は漫作品を書き続ける
そう、それが全て、読んでくれる人の為に僕はこの右手を動かす。
ただ、それだけの為に。


……………


「露伴先生、どうしたんですか?」

「なにがだい、康一君」


仕事も終わり、オフの午後。
気晴らしに出向いた本屋の帰りに寄ったカフェ・ドゥマゴの近くで
僕は下校途中の康一君を見掛け、同行者の居ないことを確認した後、お茶でもどうかと誘った。
彼は僕の作品を好きだと言う中の一人、上っ面だけの奴となら話も弾まないだろうが彼は違った。
中々鋭い感性と観察力、そして何より話しやすい雰囲気を醸し出している。
なんであんなプッツンした女に捕まったのか…と、此処は個人の事情もあるので口にするのは止めておこう。
メニュー表もそこそこに、いつものコーヒーとカフェラテを注文し終えた今、康一君が先のように尋ねてきた。


「いえ、気のせいかも知れないんですが、露伴先生が何か考え事してるように見えたので。」

「可笑しな質問だな、人間は常に何かを考え、思い、生きている。
別段珍しい事でもないだろう」

僕の問いに答える前に、注文した品が運ばれてきた。
香ばしいコーヒーの香りに自然と溜息を漏らした僕は、カップを片手にした。
運ばれてきたばかりの飲み物は口を付けるにはまだ少し熱く、飲めやしない。
かと言って温ければ品質に問題有りと僕は店員を呼びつけるだろう。
この熱さは合格だ、と一人満足していると軽く唸ったような康一君の声に視線を上げると
そうじゃあないと言わんばかりに手を左右に振り、目の前に置かれたカフェラテへと手を伸ばした


「ん~…僕が言ってるのはそういう事では無くて、
プライベートで何かあったのかなぁ~って話です。」


いまだ熱いであろうカフェラテに息を吹きかけながら、康一君はさらりと言ってみせた。


「ほぉ~根拠はあるのかい…?」

「僕をお茶に誘うなんて、何か話したいからだろうと思ったんですよ。
しかも仕事のこと以外、先生は仕事に対して自分で解決しますからね」


カップが傾き、カフェオレが口の中に少量流れ込むと
やはりまだ熱かったのか、二つの両目が熱さに耐えるようにきつく閉じられた。
彼は猫舌なのか…と思いつつ、自分もカップに手を伸ばしながら言葉を返した。


「君も失礼な奴だなぁ…よくそんなにズケズケと言えたものだよ。」

「わかりやすい露伴先生がいけないと思います」

「フン…将来、僕の担当にならないかい康一君、君とならいい仕事が出来るよ」

「有難いですがお断り致します、僕は友人としてが一番心地良いので。」

「だ、ろうな…君のそういうところ、僕は大変気に入っている…//」


程よい温度になったコーヒーの香りを楽しんだ後、二、三口飲んだ僕はカップを置き
両肘をついて康一君へ視線をしっかりと合わせた。
なんだ、改まって…と少し驚いた様子の彼に僕はとある質問をしてみることにした。


「君は僕の漫画のファンなんだよね、康一君」

「えっ、はい、そりゃ勿論ファンですよ」

「一番のファンだと言える自信はあるかい?」

「初版から単行本持ってますし、連載されてる週間少年ジャンプも毎週買ってます、
特装版が出れば予約しますし、特別読み切りがあるって言えば楽しみで仕方無いですけど…
そんな先生らしく無い質問なんて本当一体どうしたんですか…;?」


らしくない、と取られた質問に答える康一君の表情はどんどん困惑したものに変わっていく。
僕自身もこんな質問はナンセンスだと思っている、しかし、この抱えた疑問も解決したくて仕方がない。
そこで改めて、お茶に誘った理由を話し始めた。


「実は先日、とある奴に言われた一言がどうにも気になっていてね。
そいつにはセンスのカケラも、漫画に対しての美意識も無いクセに僕に言いやがったんだ。
『アンタの一番のファンは誰だかわかるか?俺は知ってる』…とね、僕の作品も読みやしないし興味もない奴の言葉なんざ
気にしなけりゃいいんだろうが考えれば考えるだけむかっ腹が立って仕方無い、ハッタリだろうと
僕が問い詰めてもそいつは余裕綽々に言いやがるんだ、『自分で考えろ』だとさ、ムカツク話だとは思わないかい?」


その時の事を思い出しただけで怒りで顳かみに力が入る。
ヘラヘラとした笑顔、そのくせ自信満々、ヘブンズ・ドアーで読んでやっても良かったんだが
それじゃあ僕の負けになるような気がしてグッと堪えはいいが、気になりすぎて仕事も手に付きやしない。
なんだ、僕に読者一人一人にアンケートでも取れっていうのか?やれと言うならやったっていい。
ヘブンズ・ドアーを使えば記憶は操作出来るし証拠は残らないが、きっとそういうことじゃあ無い。
解っているのに分からない、僕が馬鹿なのか、あのクソッタレが馬鹿なのかいよいよ分からなくなってきた。


「露伴先生、先生…せんせーい!!」


ふと自分の意識と格闘している中で、いつから呼んでいたか知れないが
康一君の声で我に返り、顔を上げると相手の表情は苦笑いを浮かべていた。
ほら見ろ、困っているじゃあ無いか、友達まで困らせてお前はそんなに楽しいのか?
此処にいない奴に悪態を付いても意味は無いが、少しだけ気が晴れるように思えた。


「大体事情はわかりました、じょ…いや、その、露伴先生の一番のファンを知っているって言った人は
嘘は言ってないと思います、だって嘘ついても先生にはバレちゃうでしょ、きっと。」

指で頬を掻きながら話す康一君に僕は腕を組んで背を凭れて頷いた。


「無論だ、スタンド能力を使わずとも表情の分かりやすい奴だからな…
それに僕に嘘を付いたらどうなるかも身をもって理解しているはずだ、あのクソッタレは…」

最早、誰に言われたかを康一君は理解しているだろうが、敢えて名前は絶対に言ってやらない。
無意味だが此処までくれば意地の一つでも張らなけりゃやっていられない、それだけ僕は頭にきているんだ。


「ここは素直に本人に聞くのが最善の近道だと僕は思いますよ」

「何を言い出すんだ康一君、さっき理由を説明したばかりじゃあ無いか、聞いてなかったのか!?」

「一言一句漏らさず聞いてました、だからですよ。
自分で考えろって言われた露伴先生は考えに考えた結果、
わからなかったんだからそれで良いと僕は思います。
充分に考えたし行動は起こしたんだから、相手も答えてくれると僕は思います。
相手もそこまで意地悪じゃないですよ、きっと。」


自分の意見をしっかりと伝えつつ、その表情は穏やかに優しく微笑んでいた。
これ以上は僕の仕事だ、それに彼はもう充分にヒントをくれたのだから。
カタリ、と椅子を引き僕は立ち上がるとテーブルへ二人分の料金を置き、カバンを肩に掛けた。

「ありがとう康一君、おかげで有意義な時間を過ごすことが出来たよ」

「お役に立てたなら僕も嬉しいです、答えがわかったら良ければ僕にも教えて下さい、露伴先生。」

「あぁ、考えておくよ、それじゃ失礼する」


こうして僕は康一君をカフェに残し、一路家路を急いだ。
これはギブアップじゃあ無い、僕なりに考えた結果を提示してやるのだ…と
足早に見慣れた通りを急いだのだった。

「まったく…仗助君も意地悪なんだから」


=============================



帰宅早々に電話を入れ、今夜話があるから家に来いと仗助を呼び出した。
幾分か気の晴れた僕は明日送る原稿の手直しをしようと締まった封筒を取り出し
目についた箇所に訂正、または描き直しを始めると自分でも驚く程の捗りをみせた。
主人公の躍動感、この背景はもう2トーン落とした方が良い、乗り物は車よりバイクの方が…
時間も忘れ、ただひたすらにペンを走らせてどの位時間がたったのだろうか、、、
外はすっかりと暗くなり、無意識のうちに着けたスタンドライトだけが手元を照らしていることに気が付いた。
全てが終わり、ペンを手放した僕は両手を両脇に垂らし椅子に凭れて大きく深呼吸をする、全身の力を抜くように。
心地良い、これが僕の求めていた感覚…その中で、ふと背後で静かに息づく気配に気が付いた。


「お疲れ様っス」


耳慣れた声の主がこの部屋にいつから居たのだろうか、僕は全く気が付かなかった。
薄暗い室内、電気も付けずに息を顰めていたとでも言うのか?
しかし、今の僕に椅子を回転させるだけの気力も残っちゃいない。
思い通りの原稿を仕上げた余韻に浸るのが精一杯なのだから。


「いいっスよ、そのままでっ…と」

僕が言葉をくれてやる前にソファーがギシっと音を立てたかと思えば、
ゆっくりと視界が180度回転し、目の前に現れた光景。
そこには片膝をついた状態で僕を見上げる東方仗助の姿があった。


「相当集中してたみたいっスね、俺の事分かります?」

「…馬鹿にするんじゃあ無い、お前のアホ面ならよく見えているよ。」


本来の予定ならば呼びつけた手前、仁王立ちでも決め込んで堂々と仗助を迎え撃つつもりだったが
今のこの状態は何とも情けない、しかし不思議と嫌な感じはしなかった。


「なぁ、今夜お前が呼ばれた理由はなんだかわかるか…?」

「大体の予想は立ってますよ、あの話の答えっしょ?」

仗助の言葉に『そうだ』と頷き返すと、
男にしては大きな瞳が一つ瞬きをみせたのが合図、と、僕は話を切り出した。


「あの後、僕は考えて考えて、それこそ頭に血が上る程考えた。
全ての読者にスタンド能力を使ってでも調べてやろうかとさえ思った、
思い当たる節にも意見を聞いてみたが結局わからなかったがな…これが僕の答えだ。」

「物騒な…でも今は随分大人しいんスね、今の露伴センセーは結構レアっスよ。」


「安心しろ、お前を蹴り飛ばすくらいは出来る…それで、今度はお前の番だ。
僕の一番のファンてのは一体誰なのか答えてもらおうじゃあないか、
返答次第じゃ蹴り飛ばされるだけじゃすまないと思って答えろよ」


さてどんな答えが返ってくるのやら…薄ら笑みを浮かべて問う僕に
仗助もフッと思い出し笑いのような含み笑いを返してみせると
椅子の肘掛に両手を置いて、しっかりと僕に視線を合わせて口を開いた。


「アンタだよ」

「……?」

「アンタ自身だよ、露伴センセー」


仗助が何を言っているのか、僕には理解出来なかった。
やはり僕をからかっているのだな、そう判断した脳が信号を送り
僕の右足が仗助めがけて蹴り伸びた瞬間、それは阻止された。


「受け止めるな、卑怯だぞ」

「卑怯も何も、俺はウソ言ってねーもん蹴られる筋合いは無ぇーよ」

余裕でガードされた左腕の隙間から顔を覗かせ
不服そうに仗助が言うのを聞き、言い訳を聞いてからでも
ボコボコには出来ると一度足を降ろした。
耳に聞こえる程大きく息を吐いた仗助の口が、その理由を語り始めた。


「読者に読んでもらう為だけに漫画を描いてるって話は前に康一から聞いてる。
でもよぉ…それって漫画描くのが好きで、自分の作品が好きだからだろ?
バイクとか家がどーしようも無いくらい駄目になったってどうでもいいっつって切り捨てる姿見てて、
プライドの高さは知ってるつもりだ、そんなアンタが漫画を描き続けてる理由はただ一つ。
読者に読んでもらうためなのは勿論、自分自身が自分の作品を好きだからだろうなって俺には思えたんス。
んで、ちょっと意地悪な質問をしてみたんスよ、『アンタの一番のファンは誰だかわかるか、俺は知ってる』ってね」


仗助の言葉を聞き漏らすまいと研ぎ澄ませた耳に語られる理由に
漸く理解が追いついた途端、鳥肌と共に顔に熱が集まっていくのが感じられた。
どうしようもなく真っ直ぐで、恥ずかしい、だが喉に閊えて言葉が出て来やしない。
僕としたことが何故初めに気が付かなかったのだろうか、そんな当たり前の事に。
時間も忘れ、ペンを走らせ、気に入らなければ書き直す、完成した時の達成感、高揚感
それを毎日のように味わっていて、納得して送り出しているこの感覚は僕にしか分からないハズだ。


「なぁ?嘘じゃねーだろ、納得した…//?」


何か言わなければと焦る心とは裏腹に一言どころか一音さえ生まれない。
目の前で笑うコイツは僕の作品を読みやしないのに、
ヘブンズ・ドアーの能力のように僕を読めやしないのに
こんなにも真っ直ぐに、いとも簡単に僕の心を捲るんだ。
東方仗助・僕の周りが音も無く静かに包まれ侵食されていく気さえする中、
机上のペンが音を立てて床に転がり落ちた。


~FIN~


…………………………………


付き合ってないけどいい感じになってる?みたいな二人の話でした。
ちょっと一歩先を純粋に素直に見ている仗助君が書いてみたかったのですが
仗助君はこういうこと恥ずかしげもなく言える子だと思っております。

日常からよくネタを拾ってくる事が多い私ですが
身近な人から言われる何気ない一言にハッとさせられる感覚が好きです。
このお話には一応続きがあるのでFINにしました、後日書こうと思ってます。

ありがとうございました(*´∀`*)

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