pixivに投稿したものからTwitterログまで。
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酒の香った言葉なんて
中身の無い饅頭か
イチゴの無いショートケーキ

タチの悪いイタズラでしかない
なぁあ、そうだろう、このクソッタレめ。


………………………………

「オイ…」


断言する、今、僕は非常に怒っている、と。
目の前に散らばる金銀色、長方形の包み紙と図体のデカいガキのせいだ。
声にならない怒りとでも言うのか、喉奥を潰したような重低音で呼びかけるも相手に反応は無い。
溜まった溜息を大きく吐き出し、僕はくしゃりとヘアバンドへ手をかけた。

もう数時間前になるか…いつものように僕が仕事場で原稿に向かっていると
唐突に玄関のチャイムが鳴り響いた。
今日は特別、来客の予定も無かったハズだと居留守を決め込んでいると
廊下を歩く静かな軋みに家の中に誰か入ってきたことが伺いしれた。
誰かとは言ったが、大体察しがつく。
居留守も見越し、命知らずにも家の中に入ってくる奴なんて一人しかいやしない。
火事の修復工事も終わり、新品同様に張り替えられた廊下が鳴るのは
そこを歩く人物のガタイが良いことを表している。
徐々に近づく足音は部屋の前で止まり、ガチャリとドアが開かれたかと思えば
顔より先に目に入るのは時代錯誤な御自慢のリーゼントだ。

「なぁ~んだ、やっぱり居るじゃねぇーッスか、露伴先生」


やはりお前か…、と思いつつも態度は変えずに作業を続行。
僕の態度も見越していたのか、相手もお構い無しに部屋へと入ってきた。


「不法侵入も甚だしいぞ、東方仗助」

「だってチャイム鳴らしたって開けてくれねぇーモンは勝手に入るしかねぇ~じゃん?」

「常識も無いのか、このクソッタレが」

「そう言わないで下さいよぉ~、こっちは一週間のテスト期間終わってやっと解放されたっつーのに」

「ほぉ、それは御苦労だったな凡人学生。
しかし、学生生活において中間、期末テストは必然的行事だ。
解放されたならゲーセンでも何処でも遊びに行けばいいだろう、
何故お前は居留守を使われる事を知ってて僕の家に来るんだ、分かりきっている事だというのに理解に苦しむね。」


「相変わらずキッツイぜ…」

「正論だ」


Gペンを鳴らしながら振り向きもぜず答えると、笑い混じりの呼吸が聞こえた。
なんだ、暇を持て余したコイツはわざわざ僕を馬鹿にしに来たんだろうか。


「後どのくらいで仕事終わるんスか?」

「お前には関係無い…2時間後かも知れんし、明日の朝かもしれない」

「そー…ですか。」


僕の答えにそれだけを呟くと、仗助はドアを鳴らし再び部屋を出ていったようだった。
原稿から手も目も離せないが、気配が消えたように思える。
結局何が目的で家に来たのかも分からず仕舞いだが、まぁいいだろう。
目の前にある原稿を仕上げてしまうのが今の僕の全てなのだと言い聞かせた。


…………


そこから数時間後の現在…、目の前に広がる現実は一体なんの冗談だろうか。
今回の原稿も無事に仕上げ終わり、次回の構想も直ぐに形にできる状態に持っていき、
さて、軽く食事でもして休むかと仕事部屋を出る頃には既に午前1時を過ぎていた。
今日の紅茶は寝る前だしノンカフェインにしようか…数日前に差し入れで貰ったチョコレートでも摘んで…
彼是と予定を立てながらキッチンへ向かう足取りが、ふとリビングで立ち止まったのだ。


「……なんだ、一体…」


己が目の前に広がる光景に目を疑った。
テレビは既に砂嵐となった地方局チャンネルをどのくらい映していたのか知れないし
数冊積まれたハイブランド雑誌、そして僕のソファーから後頭部と肘だけがはみ出した様に
背中から覗き込めば我が物顔で腰掛けて呑気にうたた寝こいているコイツの顔。
あれから何時間経ってると思ってるんだ、何故未だに僕の家に居るんだよお前はっ!

言ってやりたい事は喉元から競り上がってくるというのに
いざ口内までやってくれば全てが溜息に変わってしまうのは何故だろうか。
諦め?呆れ?あぁ馬鹿馬鹿しいさ、目の前の状況も何も言えない僕にもだ。


「起きろ、起きろよクソッタレ…」

何故僕がお前の顔を見ずに言葉をくれていたのか分からないのか。
顔を見ちまったら、仕事が手につかなくなっちまうからだよ、
玄関のベルが鳴り響いた瞬間、期待した僕がいたのは確かだ。
何かっていうと僕の前に現れては感に触る事、シャクな話をしては去って行くじゃあないか。
むかっ腹は立つさ、だがな…それ以上に胸の中に渦巻く感情に自分じゃ理由が付けられないんだ。


「起きろと言っているんだっ、仗助」

「…~ん…ぁ、あぁ~…先生終わった…~っスか…?」


漸く気が付いたらしく、欠伸混じりに目を擦りながら瞼を開こうとするも
未だ起きるという行為までは達しないようで、ソファーに背を預けて
仗助は大きく息を吐いてみせた。


「甘ったるいし酒臭い」

「ん~…多分、アノお菓子が原因じゃないっスかねぇ~…美味かったですけど」


床に数枚散らばった金銀の包み紙を辿れば、仗助の目の前にあるテーブルへと行き着く。
品良く箱に納められた16個入のチョコレートは僕が先程食べようかと思っていたあの差し入れに間違いない。


「お前、箱の文字を読まなかったのか…しっかりbonbonと書いてあるだろうが!
高校生のガキが洋酒なんて生意気なんだよ、このクソッタレめ」


「だって露伴先生の仕事終わり待ってたら腹減って来ちゃったんスもん。
オーソン行ってこようかとも思ったけど、今度こそ締め出し食らいそうで止めました。」


「誰もお前に待ってろとは一言も言ってない。」

「帰れとも聞いてないっスよ?」


仗助の一言に思わず僕は黙ってしまった。
確かに、言ってない…そう気が付いたときには後の祭りで
悪戯に成功したような無邪気に笑って見せる顔に勝敗は明らかじゃあないか。


「オレ、明日休みなんで泊まってっても良いですか?」

「図々しい…お前が明日休みなど僕の知ったことじゃあない。
…が、酔っ払ったガキをそのまま帰宅させる程、僕は非常識でもない。
親御さんには連絡してあるのか?」

「勿論、とっくの昔に」

「呆れる程抜け目が無い奴だ…、その甘ったるい匂いを何とかしてこい
でなければ寝床は貸さないぞ。」

「了解っス、んじゃ風呂借りますね~//」


満足したように仗助は笑顔で立ち上がり、僕の横を通って部屋を出ていった。
僕だって分かってるさ、お前が酒に強い事くらい、あの程度のチョコレートbonbonなんかじゃあ酔いもしないことくらい。
こうすれば僕がお前を追い出さないとでも思ったのか、全くその通りだよ大馬鹿野郎。

「一体どっちが大馬鹿者か…僕にどうしろって言うんだ」

スタスタとスリッパの音を響かせながら仗助が風呂場へと向かっていくのを耳にしながら
僕は両手で顔を押さえながら呟いた。
熱があるんじゃないかと思えるほど頬が熱いし頭も鈍く痛い。
きっと部屋に充満するアイツが漂わせたこの甘い匂いのせいだろう、そうに決まっている。
これ以上、余計な考えで可笑しくなっちまう前に…と、窓辺へと足を進めた。
勢い良く窓を開けば肌涼しい夜風と空には綺麗な満月が輝いていたが、そいつはまるで
とことん素直じゃないな、そう嗤っているように僕には見えて仕方のない夜だった。


*終*

―――――――――――――

後書


初めての仗露でした。
馥郁と言うのは、よいにおいがあたりに広く漂うさま。
仗助君が漂わせたのはチョコレートの香りか、または洋酒の香りか…それとも。
同じ香りでもその時の気分によって感じ方は違うといいますし
露伴先生の感じた香りはどれなんだろうなぁ~と思いながら書きました。

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