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北風がベランダを通り抜け、高鳴らす冬の始め。
今日は天気が良いと言うのに僕の体調は優れなかった。

高校時代、仲間と共に旅をしたエジプト、宿敵であり因縁の相手であるDIOとの決戦で
僕は生死の境をさ迷う重傷を負った…いや、確かにあの時、僕は一度命を零してしまっていたに違いない。
痛みを感じる暇も無く、朦朧とする意識は光を失い、這いよる闇へと飲み込まれた。
無の支配するなにも無い空間の中で、時折僕の名前を、何度も何度も呼び続ける声を耳にしていたように思う。


次と言うかなんというか、僕が目覚めた時の記憶は定かじゃなくて…
重く分厚い鉄製の扉でも開くように開けた両瞼には痛いほどの光が飛び込んで来たかと思えば
違和感のある息苦しさを覚えた口元には酸素マスク、目は光にやられてまだ良く見えやしなかった。

ただ鮮明に覚えているのは右手に伝わってくる体温、自分のものより高い人の体温だった。
理解よりも感覚で僕は察することができた…承太郎だ。
彼は僕の命を掬い上げ、またこの世界に連れ戻してくれたんだって…。


「今日は風、強いんだな…」


ゴロリと横になったベッドの上で僕は枕を抱えて外を見やった。
逆さまに映る窓の外は雲一つ無く、やわらかな空色一色。
時折、鳥が視界を遮っていく…スズメ、かな…?


「そんな体勢じゃアタマに血が上っちまうぞ」


ぼんやりと外を眺めていた僕の片視界に色浅いジーンズが映った。
何をしてると言いたげな声のトーンから察するにきっと僕をやや呆れた表情で見下ろしているに違いない。


「大丈夫だよ、なんだかこうしていたい気分なんだ、承太郎」


尚も僕は逆さまの世界を見続けながら僕は笑顔交じりに答えた。
枕を抱える腕に力を入れれば、中で綿が詰まる感触が伝わる。


「ねぇ、君、空にも穴があるって知ってるかい」

「穴…?」

僕の唐突な質問に承太郎は声で首を傾げてみせた。


「エアーポケットって言うらしいんだけど、突然なんの前触れもなしに飛行機が姿を消したり
整備不良も無く飛び立ったのに墜落したりする事があるんだそうだよ…原因不明でね」

「…オカルト関係なら勘弁だぜ」


そう言うと承太郎はベッドの足元に腰を降ろしてみせた。
さっきまで映っていたジーンズが今は彼の後頭部へと移り変わっている、とても近い。
きっと振り向いたら眉を潜めているだろね、表情が目に浮かぶようだよ。
僕は相変わらずの体勢で承太郎の顔左側に視線を合わせてみせた。


「違うよ、承太郎、僕が言いたい事は『世の中、突然何が起こるか分からない』ってことさ。
沈むはずの無いと言われた豪華客船が沈没したり、生きて二度と出られないと言われる海域から生還したり…
大丈夫だと思っていた事が次の瞬間には崩れることだってある、逆も然りさ。
そういう意味では本当の平和って無いのかもしれないね…。」


僕達は高校時代、それこそRPGゲーム顔負けの冒険をした。
初めは君とは敵同士から始まって、仲間と呼べる人達が出来て嬉しかった事、よく覚えている。
苦難する旅路、襲いかかるスタンド使い、強敵との戦い・・・そして、僕は一度死んだんだ。
だから今、此処にいて君と話をしている事は僕からすれば正に奇跡そのもの。
こうして暮らす日々の幸せの中にもたしかに存在する過去は、忘れるなと時折傷に痛みを刺す。
苦しみは乗り越えたはず、だが、それでも耐えられずに落ちてしまう日だってあるさ。

抱えた枕に力を込めて、僕が溜息を一つ吐いたときだった。


「花京院」


呼吸するように僕の名前を呟き、承太郎は此方に視線を向けた。
影を落としそうな長い睫毛に覗く瞳は同性の僕から見たって綺麗だと思う。
距離にして十数センチ…もう少しで唇が触れそうな中、ただ僕は承太郎の瞳を見ていた。
いや、それしか出来なかった…スタープラチナでも使ったのかい、身体が少しも動かせやしない。
すると、承太郎の腕がスッと伸びてきたかと思えば僕の両腕を埋めていた枕は取り上げられてしまい
抵抗する隙も無かった僕の両腕は力なく宙を掻いた。

温めていた熱が逃げていく、寒くは無いけれど両腕が空いてしまった。
僕から取り上げた枕を無造作にベッドへ投げる音が聞こえる。
機嫌を悪くさせてしまったかな…そう思っていると、腹部に温かい感覚を覚えた。
当てられたのは大きな手、熱の伝わる承太郎の右手だった。


「傷が痛むなら素直に言えよ…何かしてやれるわけじゃねーが、傍にはいられるぜ。」


服を一枚隔てているというのに、それはじんわりと僕の身体へ熱を広げる。
大きな手の平から送られる体温は消えるはずのない傷痕を穏やかに侵食してゆく、
それは僕をこの世界に引き戻したあの光と同じだった。


「隠さなくていい。こんな傷くらい、いつでも摩ってやる」


重く響く君の声に耳が震える思いがする。
全てを背負う君だから言える、こんな傷ぐらいだと。
僕より傷だらけの君に言われるなんて何だかおかしいな話だけれど
憂鬱な思いが掬い上げられ、遠く遠くへ離れていくようだ。


「君はいつも突然だね…いきなりビックリするだろう。」

「こうでもしなきゃ、テメェーの沈んだ顔は変わらねぇーだろ」

「かもしれない、でも僕はその強引さに救われているように思うよ、承太郎」


穏やかに呆れた表情を浮かべてみせた承太郎につられて僕はクスリと笑みをもらした。
逆さまの世界からそろそろ抜け出さねばと承太郎の手に手を添えて身体を起こした。
少しクラつく頭を戻すように軽く首を振り、ベッドから降りると承太郎も立ち上がって背を伸ばしてみせた。


「なぁ、散歩に出かけないかい、なんだか甘いものが食べたい気がするんだ」

「タバコが吸えてコーヒーが飲めるところだったら付き合ってやるぜ」

「うん、それじゃ行こう…//」


この傷は命と、君の大切さを僕に教えてくれた。
醜くて愛おしい、そんな気さえする。
この世界を諦めなくて良かった、僕を救った希望が目の前でそう言っているんだから。


【END】

…………………………


初書きの承花でした。
花京院の傷を『こんな傷』と言えるのは恐らく世界に承太郎さんただ一人だと思います。
しかし承太郎さんを喋らせるのってこんなに難しいものなのか…精進します。


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